日本の森・吸収力レポート

木材製品が果たす炭素貯蔵の役割:企業のサプライチェーン戦略とCSRへの応用

Tags: 木材利用, 炭素貯蔵, CSR, サプライチェーン, 気候変動対策

はじめに:森林の「炭素貯蔵」機能と企業活動

地球温暖化対策として、森林による大気中の二酸化炭素(CO2)吸収機能への注目が高まっています。森林は樹木の成長過程でCO2を吸収し、炭素として幹や枝、根などに貯蔵します。この貯蔵された炭素は、樹木が伐採され木材として利用された後も、木材製品の中に固定され続けます。これを「炭素貯蔵機能」と呼びます。

森林による炭素吸収は「吸収源対策」として重要視されていますが、適切に管理された森林から生産された木材を建築物や家具、その他の製品として長く利用することも、炭素を大気中に戻さず貯蔵し続けるという点で、気候変動対策に貢献する重要な要素です。特に、企業が製品や施設に木材を利用することは、単なる資材調達を超え、サプライチェーン全体での環境負荷低減や、CSR活動の一環として位置づけることが可能となります。

本記事では、木材製品が持つ炭素貯蔵の機能とその意義、そして企業がサプライチェーン戦略やCSR活動においてこの機能をどのように捉え、活用していくことができるのかについて解説します。

木材製品における炭素貯蔵のメカニズムとその意義

樹木は光合成によって大気中のCO2を取り込み、炭素(C)を体内に蓄積します。この炭素は、樹木が伐採された後も、製材や加工を経て建築材や家具、紙製品などの木材製品として利用されている間、その製品の中に固定されたままの状態となります。これが木材製品の炭素貯蔵機能です。

木材製品に貯蔵される炭素量は、木材の種類や密度、製品の体積などによって異なりますが、一般的に乾燥した木材の約50%は炭素であると言われています。例えば、建築物に使用される木材1立方メートルあたりには、おおよそ0.26トン程度の炭素が貯蔵されるとされています(炭素をCO2換算する場合は約0.95トンCO2)。建築物のように寿命の長い木材製品の場合、数十年から百年以上にわたり炭素を貯蔵し続けることが可能です。

この炭素貯蔵機能は、以下の点で気候変動対策において重要な意義を持ちます。

企業のサプライチェーン戦略における木材利用の視点

企業のサプライチェーン全体でのGHG排出量削減が求められる中、木材利用は特にScope 3(自社の事業活動に関連するサプライチェーンからの間接排出)における貢献の可能性を秘めています。

これらの取り組みは、直接的なGHG排出量削減として算定が難しい場合もありますが、バリューチェーン全体の環境負荷低減への貢献として、非財務情報開示やCSR報告書において定量・定性的に示すことが可能です。特に、サプライヤー選定基準に持続可能な森林管理からの木材調達を含めることは、責任ある調達を推進する上で有効な手段となります。

CSR活動としての木材利用促進と地域貢献

企業が木材製品の利用を促進することは、炭素貯蔵による気候変動対策への貢献だけでなく、日本の森林・林業が抱える様々な課題の解決や、地域活性化にも寄与するCSR活動となり得ます。

国や自治体も、公共建築物等における木材利用の促進に関する法律や、木造建築に関する技術基準の整備、CLT(直交集成板)のような新たな木質系材料の普及支援などを行っており、企業が木材利用を進める上での後押しとなっています。これらの政策や支援制度(例:木材ポイント制度など)の活用も、企業CSRの選択肢の一つとなります。

炭素貯蔵量の把握と情報開示の重要性

木材製品による炭素貯蔵機能を企業の貢献として示すためには、その効果を定量的に把握し、信頼性のある情報として開示することが重要です。しかし、製品の種類、使用量、耐用年数などが多岐にわたるため、精緻な炭素貯蔵量を算定することは容易ではありません。

現在、国内外で木材製品の炭素貯蔵量に関する算定方法や基準の整備が進められています。例えば、建築物における木材の炭素貯蔵量を算定するためのガイドラインなどが存在します。企業は、これらの既存の算定方法やデータ(例:製品ごとの平均的な炭素含有率や耐用年数など)を参考に、自社の木材利用による炭素貯蔵効果を可能な範囲で算定・推定し、CSR報告書や統合報告書などで開示していくことが望まれます。

情報開示にあたっては、算定の根拠や方法、使用したデータなどを明確にすることで、透明性と信頼性を高めることができます。これにより、投資家や顧客からの評価向上、そして他の企業への良い影響を与えることが期待できます。

まとめ:木材製品の炭素貯蔵機能と企業の将来戦略

日本の森林は豊かな資源であり、その恵みである木材製品が持つ炭素貯蔵機能は、気候変動対策において見過ごせない重要な役割を果たしています。企業がサプライチェーンやCSR活動において、この木材製品の炭素貯蔵機能を戦略的に捉え、国産材や認証材の利用を促進することは、単に環境負荷を低減するだけでなく、持続可能な資源利用、地域林業・経済の支援といった多面的な価値を生み出します。

建築物や製品への木材利用を通じて炭素を長く貯蔵することは、企業のカーボンニュートラル目標達成に向けた貢献の一つとなり得ます。また、責任ある調達やサプライチェーン全体での環境配慮は、ESG投資の観点からも企業価値向上に資する要素です。

今後、木材製品の炭素貯蔵に関するデータ整備や算定方法の標準化が進むにつれて、企業はより正確にその貢献を把握し、開示できるようになるでしょう。企業の皆様には、日本の森林から生まれた木材製品が持つ「炭素を貯蔵する力」に着目し、持続可能な未来への貢献に繋がる木材利用を積極的に推進していくことをお勧めいたします。