日本の森林経営計画と炭素吸収:企業が関わる意義と可能性
はじめに
日本の森林は、国土面積の約3分の2を占める貴重な資源であり、多面的な機能を持っています。その中でも、地球温暖化対策として注目されているのが、森林による二酸化炭素(CO2)の吸収・固定機能です。この炭素吸収能力を最大限に引き出し、維持・向上させるためには、適切な森林管理が不可欠となります。本記事では、森林管理の中核をなす「森林経営計画」に焦点を当て、それが日本の森林の炭素吸収量にどのように寄与するのか、そして企業の皆様がこの取り組みにどのように関わることができるのかについて解説します。
企業の皆様、特にCSR担当者や環境問題に関心のある方々にとって、森林の炭素吸収に関する情報は、CSR報告書作成、ESG投資判断、あるいは新たな社会貢献活動を検討する上で重要な示唆を与えるものと考えています。
森林経営計画とは
森林経営計画とは、森林所有者または森林の経営の委託を受けた者が、自身の森林について、伐採や植林、下草刈り、間伐などの森林施業をいつ、どこで、どのように行うかなどを定めた5年間の計画です。これは森林法に基づき、市町村長の認定を受けることで、様々な優遇措置(補助金、税制優遇、低利融資など)を受けることが可能となります。
この計画は、単に木を育てて収穫するためだけでなく、森林の持つ多面的な機能(水源涵養、山地災害防止、生物多様性保全など)を持続的に発揮させることを目的としています。適切に作成・実行される森林経営計画は、長期的な視点に基づいた健全な森林育成を促進する基盤となります。
森林経営計画が炭素吸収量に与える影響
森林による炭素吸収は、光合成によって大気中のCO2を取り込み、樹木や土壌中に有機物として貯蔵するプロセスです。森林の炭素吸収能力は、その森林の齢構成(樹齢の分布)、樹種、密度、そして管理状態によって大きく変動します。
森林経営計画に基づく適切な森林管理は、炭素吸収量を効果的に高めるために非常に重要です。
- 植林と育成: 計画的な植林は、新たな若齢林を創出し、活発な光合成による炭素吸収を促進します。
- 間伐: 適齢期に行われる間伐は、残存木の成長を促進し、森林全体の光合成能力と炭素固定量を向上させます。密植された森林よりも、適度に間伐された森林の方が一本一本の樹木が健全に育ち、より多くの炭素を吸収することが知られています。また、間伐材は木材製品として利用され、そこでも炭素が固定され続けます。
- 齢構成の最適化: 森林経営計画は、長期的な視点から森林の齢構成を管理することを促します。一般的に、若齢林から壮齢林にかけて炭素吸収速度が最も高く、成熟すると吸収速度は鈍化します。計画的な伐採と再造林を組み合わせることで、森林全体の吸収能力を維持・向上させることが期待できます。
逆に、適切な管理が行われず放置された森林では、樹木が過密になったり、病虫害が発生しやすくなったりすることで、健全な成長が阻害され、炭素吸収能力が低下する可能性があります。また、枯死木の増加は、蓄積された炭素の放出につながることもあります。
日本の森林における森林経営計画の現状と課題
日本の森林は、戦後植林された人工林が多くを占めており、その多くが利用期を迎えています。これらの森林資源を有効活用しつつ、炭素吸収源としても機能させていくためには、森林経営計画に基づく適切な管理が不可欠です。
しかし、森林所有者の高齢化や不在村化により、全ての森林で適切に森林経営計画が作成・実行されているわけではありません。また、路網整備の遅れや林業採算性の問題など、計画実行を妨げる様々な課題も存在します。これらの課題を克服し、より多くの森林で計画的な管理を推進することが、日本の森林全体の炭素吸収能力を高める上で重要となっています。
企業が森林経営計画と連携する意義と可能性
CSRやESG投資の観点から、環境問題への貢献が求められる現代において、企業が日本の森林の適切な管理、特に森林経営計画の推進に関わることは、大きな意義を持ちます。
企業が連携できる主な方法としては、以下のようなものが考えられます。
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森林整備活動への支援・参画:
- 企業版ふるさと納税を活用した森林関連事業への寄付。
- NPO等と連携した従業員による森林整備活動(植林、下草刈り、間伐など)。
- 「企業による森林づくり」を推進する自治体の制度活用。
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J-クレジット制度等の活用:
- J-クレジット制度は、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2排出削減量や、森林管理によるCO2吸収量をクレジットとして認証する国の制度です。
- 企業は、森林所有者等が創出したCO2吸収量クレジット(森林由来クレジット)を購入することで、自社の排出量オフセットに活用できます。これは、森林経営計画に基づき適切な管理が行われた森林から生まれるクレジットが対象となる場合が多く、森林管理の促進に間接的に貢献することになります。
- 自社で所有または借り受けた社有林等で森林経営計画を作成・実行し、J-クレジットを創出することも可能です。
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木材利用の促進:
- 合法木材や国産材、間伐材の利用を製品や建築物に積極的に取り入れることは、適切な森林管理(伐採・再造林のサイクル)を経済的に支えることに繋がります。木材製品に固定された炭素は、その利用期間中、大気中への放出を防ぐことができます。
企業がこれらの活動に関わることは、単に炭素吸収に貢献するだけでなく、水源涵養機能の維持による地域社会への貢献、生物多様性保全への貢献、山地災害リスク低減への貢献など、森林の持つ多面的な機能維持にも繋がります。これは、企業のCSR活動としての信頼性や評価を高め、ESG投資家からの評価向上にも寄与すると考えられます。
まとめ
日本の森林経営計画は、持続的な森林管理と森林の多面的な機能発揮、そして炭素吸収能力の維持・向上にとって重要な基盤です。森林経営計画に基づく適切な管理が進むことは、地球温暖化対策に貢献するだけでなく、国土保全や生物多様性保全といった社会的なメリットも生み出します。
企業の皆様が、森林整備への直接的な支援、J-クレジット制度を通じた間接的な支援、または木材利用の促進といった形で森林経営計画に関連する活動に関わることは、CSRとして非常に有効であり、社会からの期待も高まっています。日本の森林の吸収力を高めるために、森林経営計画の意義をご理解いただき、具体的な連携の可能性を探求されることをお勧めいたします。このような取り組みは、持続可能な社会の実現に貢献する重要な一歩となるでしょう。