日本の森・吸収力レポート

サプライチェーンにおける森林関連リスク:評価手法と企業に求められる対応

Tags: 森林関連リスク, サプライチェーン, リスク管理, CSR, 森林保全

森林関連リスクとは何か? サプライチェーンにおけるその重要性

企業のグローバルなサプライチェーンは複雑化しており、原材料調達から製品の消費に至るまで、様々な環境・社会的な影響を内包しています。その中でも、森林に関するリスクは近年、企業の持続可能性戦略において看過できない課題となっています。ここでいう「森林関連リスク」とは、違法伐採や森林劣化、大規模な土地利用転換(農地やプランテーションへの転換)、さらにはそれに伴う生物多様性の損失、地域住民や先住民の権利侵害など、森林とその周辺環境に関わる様々な負の影響を指します。

これらのリスクが企業のサプライチェーンに顕在化した場合、以下のような影響が想定されます。

CSR担当者の皆様にとっては、こうしたリスクを早期に特定し、適切に管理することが、企業の持続的な事業運営と企業価値向上において極めて重要となります。本稿では、サプライチェーンにおける森林関連リスクの評価手法と、企業に求められる具体的な対応について解説します。

サプライチェーンのどこに森林関連リスクは潜むのか?

森林関連リスクは、特に森林資源やその跡地で生産される原材料を調達する際に発生しやすい傾向があります。具体的には、以下のような原材料や関連製品のサプライチェーンにおいてリスクが高いと考えられます。

これらの原材料は、最終製品として消費者に届くまでに様々な段階(農園・伐採地 → 集荷・一次加工 → 商社・中間業者 → 製造業者 → 小売・消費者)を経由します。リスクの特定を困難にしている要因の一つは、サプライチェーンの階層が深く、特に原材料の生産地まで遡ることが難しい点にあります。

森林関連リスクの評価手法

リスクを管理するためには、まずそのリスクを正確に評価する必要があります。サプライチェーンにおける森林関連リスクの評価には、以下のような手法が用いられます。

  1. サプライヤーへの情報開示要請: サプライヤーに対し、原材料の生産地、調達先の情報、森林に関する方針や取り組みなどについて質問票を送付したり、直接的な対話を通じて情報を収集します。サプライヤーが自身のサプライチェーンのどの部分まで把握しているかを確認することも重要です。
  2. 地理情報システム(GIS)や衛星データの活用: リスクが高いとされる地域の森林被覆の変化や土地利用状況を、GISや衛星データを用いて分析します。森林破壊のホットスポットや、自社の調達地域との関連性を視覚的に把握することが可能になります。
  3. 業界データベースや外部評価サービスの利用: 森林関連リスクに関する情報を提供する専門機関や業界団体が構築したデータベース、あるいは企業のサプライチェーンリスクを評価する外部サービスを利用します。これにより、自社だけでは把握しきれない広範なリスク情報を得ることができます。
  4. 森林認証制度などの基準活用: FSC(森林管理協議会)やPEFC(森林認証プログラム)などの森林認証制度は、責任ある森林管理やサプライチェーンのトレーサビリティを保証する国際的な仕組みです。認証材を調達することは、リスクを低減する有効な手段の一つですが、認証制度そのものの信頼性やカバー範囲にも留意が必要です。
  5. 現地調査: リスクが特定された地域において、サプライヤー、地域住民、NGO等と協力して現地調査を実施し、実態を詳細に把握します。

これらの手法を組み合わせることで、自社のサプライチェーンにおける森林関連リスクのレベルを多角的に評価することが推奨されます。

森林関連リスクの管理戦略と企業に求められる対応

リスクを評価した後は、具体的な管理戦略を実行に移す必要があります。以下は企業に求められる主な対応策です。

  1. 責任ある調達方針の策定と実行:

    • 森林破壊や違法伐採に関与した原材料を排除する方針(No Deforestation, No Peat, No Exploitation: NDPEなど)を策定し、サプライヤーに周知徹底します。
    • 森林認証材やその他の持続可能性認証を取得した原材料の調達を優先または義務付けます。
    • トレーサビリティシステムを構築・強化し、原材料の生産地まで追跡できる仕組みを整備します。
  2. サプライヤーエンゲージメントの強化:

    • サプライヤーに対し、企業の方針や期待を明確に伝えます。
    • サプライヤーがリスク管理能力を向上できるよう、トレーニングや技術支援を提供します。
    • 改善が見られないサプライヤーに対しては、調達停止を含む措置を検討します。
  3. マルチステークホルダー連携:

    • NGO、地域コミュニティ、政府機関、業界団体など、多様なステークホルダーと協力し、地域レベルでの森林保全活動や持続可能な生産手法の普及に取り組みます。
    • 特定の原材料に関するラウンドテーブル(例: RSPO - 持続可能なパーム油のための円卓会議)に参加し、業界全体での課題解決に貢献します。
  4. 透明性の向上と情報開示:

    • 自社の森林関連リスク評価の結果、リスク管理方針、目標、進捗状況などを、CSR報告書やウェブサイトで積極的に開示します(例: CDP Forest質問書への回答)。
    • サプライチェーンのトレーサビリティ情報を公開することも、透明性向上の重要な一歩です。
  5. 投資判断への反映:

    • 金融機関にとっては、投融資先企業の森林関連リスクを評価し、リスクの高い企業との取引を見直したり、持続可能な森林管理を促すエンゲージメントを行うことが求められます。

結論:持続可能なサプライチェーン構築に向けて

サプライチェーンにおける森林関連リスク管理は、単なるリスク回避策に留まらず、持続可能な原材料調達を通じて企業のレジリエンスを高め、新たなビジネス機会を創出する可能性も秘めています。正確なリスク評価に基づいた戦略的な取り組みは、ステークホルダーからの信頼を獲得し、企業のブランド価値向上にも寄与します。

CSR担当者の皆様には、自社のサプライチェーンを深く理解し、森林関連リスクをサプライヤー任せにせず、主体的な評価と管理戦略を実行していくことが期待されます。日本の森林保全への貢献はもちろんのこと、グローバルなサプライチェーン全体での森林破壊・劣化防止に向けた企業の責任ある行動が、持続可能な社会の実現に不可欠と言えるでしょう。継続的な情報収集と改善活動を通じて、より強靭で透明性の高いサプライチェーンの構築を目指してください。