企業による森林保全活動への参画:地域連携と具体的な進め方
はじめに:企業が森林保全に関わる意義
近年、気候変動対策や生物多様性の保全に対する企業の責任がますます問われています。こうした背景の中、日本の森林が持つ多面的な機能、特に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の吸収源としての役割への関心が高まっています。企業が森林保全活動に参画することは、単に環境貢献に留まらず、企業の社会的責任(CSR)の遂行、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献、そして企業価値の向上に繋がる重要な取り組みと言えます。
森林はCO2を吸収・固定するだけでなく、豊かな水源を涵養し、国土を保全し、生物多様性を育むなど、私たちの社会生活や経済活動を支える様々な機能を持っています。日本の森林は国土の約3分の2を占める重要な資源ですが、林業の担い手不足や木材価格の低迷などにより、手入れが行き届かず荒廃が懸念される地域も存在します。このような状況において、企業の資金力や人材、技術などのリソースを森林保全に活用することは、持続可能な森林経営を推進し、森林の機能を維持・向上させる上で大きな意義を持ちます。
なぜ地域連携が重要か:森林保全における地域社会の役割
森林は地域の自然環境、社会、経済と密接に関わっています。森林の所有者は個人や企業、地方自治体など多様であり、それぞれの森林を取り巻く環境も異なります。効果的かつ持続可能な森林保全活動を行うためには、その地域に根差した知見やネットワークを持つ地域社会との連携が不可欠です。
地域連携の主な相手としては、以下のような主体が挙げられます。
- 森林所有者: 森林整備の主体であり、企業の活動を受け入れる当事者です。
- 林業事業者: 森林整備や施業に関する専門知識や技術を有しています。
- 地方自治体: 地域の森林計画の策定や行政サービス、補助金制度などを所管しています。
- NPO/NGO: 森林保全に関する専門的な活動を行っており、市民参加を促進する役割も担います。
- 地域住民: 森林の利用や保全に関心を持ち、活動の担い手や理解者となり得ます。
これらの主体と連携することで、企業の活動は地域のニーズに合致し、円滑かつ効率的に進めることが可能になります。また、地域経済の活性化や雇用創出にも繋がり、企業の地域社会への貢献という側面も強化されます。
企業が取り組める森林保全活動の具体的な種類
企業が参画できる森林保全活動には様々な形態があります。自社の経営戦略やCSR方針、活用可能なリソースなどを考慮して、最適な方法を選択することが重要です。
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植林・育林活動への資金提供・参加: 新規に木を植えたり、成長段階の木を育てるための活動(下草刈り、枝打ち、間伐など)に対して資金を提供したり、社員がボランティアとして参加したりする形態です。これにより、将来のCO2吸収源を育成し、健全な森林の成長を支援します。
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間伐材等の未利用資源の活用支援: 森林整備で発生する間伐材や林地残材などの未利用資源の活用を支援する取り組みです。例えば、間伐材を使った製品の開発・販売、バイオマス発電燃料としての利用促進、地域の木質チップ製造施設への投資などが考えられます。これは森林所有者や林業事業者の収益向上に繋がり、持続可能な森林経営を経済的に支えることになります。
- 間伐(かんばつ): 森林の成長過程で、木の密度を調整するために一部の木を伐採すること。残った木の成長を促進し、森林全体を健全に保つために重要な作業です。
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森林整備ボランティア活動: 社員が森林に入り、清掃活動や植樹、下草刈りなどの簡易な森林整備作業を行うボランティア活動です。社員の環境意識向上やチームビルディングにも繋がりますが、専門的な作業には林業事業者の指導や協力が不可欠です。
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「企業の森」制度等の活用: 地方自治体や森林組合などが提供する「企業の森」や協定森林などの制度を活用する形態です。企業が特定の森林において、一定期間、名称権を得て植栽や整備を行うものです。協定に基づき活動内容や費用が明確になるため、取り組みやすい方法の一つです。
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地域特産品を通じた支援: 森林や林産物に関わる地域の特産品(木工品、きのこ類、山菜など)を社員向けに販売したり、贈答品として利用したりすることで、地域の経済を支援し、森林を守る活動に間接的に貢献します。
具体的な企業事例(一般的なタイプでの説明)
多くの企業が、上記のような取り組みを通じて森林保全に貢献しています。例えば、ある製造業A社では、主力製品の製造工程で使用する水の源泉である山林を保全するため、地方自治体と協定を結び「A社の森」として社員による植樹・育林活動を定期的に行っています。また、別の流通業B社では、サプライチェーン全体での環境負荷低減の一環として、製品パッケージに国産間伐材由来の紙を使用する取り組みを進めています。さらに、IT企業C社では、企業版ふるさと納税制度を活用し、特定の自治体が行う森林環境教育プログラムや間伐支援事業に資金を提供しています。これらの事例は、企業の業種や規模に関わらず、多様なアプローチで森林保全に貢献できる可能性を示しています。
活動を始めるためのステップ
企業が森林保全活動を検討し、実際に始めるための一般的なステップは以下のようになります。
- 目的と方針の明確化: なぜ森林保全に取り組むのか、自社のCSR戦略や事業との関連性を明確にします。どのような成果(例:CO2吸収量の貢献、生物多様性保全、地域貢献)を目指すのかを設定します。
- 情報収集と候補地の選定: 活動の目的や規模に適した候補地やパートナー(自治体、森林組合、NPOなど)に関する情報を収集します。インターネット検索や専門家への相談、既存の制度(企業の森など)の調査を行います。
- パートナーとの協議と計画策定: 候補地やパートナーが見つかったら、具体的な活動内容、期間、費用、役割分担などについて協議し、双方合意の上で計画を策定します。協定や契約を締結する場合もあります。
- 活動の実施: 計画に基づき、実際の活動(資金提供、ボランティア派遣、資材購入など)を実施します。
- 効果測定と報告: 活動によって得られた効果(例:植樹本数、整備面積、参加人数、CO2吸収貢献量など)を測定し、ステークホルダー(株主、顧客、社員、地域住民など)に対して報告します。CSR報告書やウェブサイトなどで積極的に情報開示を行います。
特に効果測定と報告においては、可能な範囲で定量的なデータを用いることが、活動の透明性と信頼性を高める上で重要です。CO2吸収量に関しては、J-クレジット制度の活用なども検討の価値があります。
関連する政策・制度
国や地方自治体は、企業の森林保全活動を支援するための様々な政策や制度を用意しています。
- 森林環境税・譲与税: 国が創設し、市町村・都道府県に譲与される税金で、森林整備などに活用されます。企業の寄付行為と合わせて、地域の森林づくりを支援する仕組みです。
- 「企業の森」制度: 多くの地方自治体が、企業と連携して森林整備を進めるために独自の制度を設けています。特定の森林における活動協定の締結や、ネーミングライツの提供などがあります。
- J-クレジット制度: 省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用、そして森林経営等によるCO2排出削減量や吸収量を「クレジット」として認証する国の制度です。企業は森林由来のクレジットを購入することで、自社の排出量オフセットに活用できます。企業自身が森林経営に関わり、クレジットを創出することも可能です。
- 企業版ふるさと納税: 国が認定した地方公共団体の地域再生計画に基づき行われる事業に対する企業の寄附について、税制上の優遇措置が講じられる制度です。森林保全に関連する事業も対象となり得ます。
これらの制度を理解し、活用することで、企業の森林保全活動をより効率的かつ効果的に進めることが期待できます。
まとめ:企業活動と森林保全の持続可能な連携に向けて
企業による森林保全活動への参画は、地球環境問題への貢献という側面だけでなく、企業のレピュテーション向上、社員エンゲージメントの強化、そして持続可能なサプライチェーンの構築など、多岐にわたるメリットをもたらします。特に地域社会との連携は、活動の実効性を高め、地域経済の活性化にも繋がる重要な要素です。
本稿でご紹介した具体的な活動の種類や進め方、関連制度に関する情報が、企業のCSR担当者の皆様が森林保全への取り組みを検討・実施される上での一助となれば幸いです。自社の事業特性や経営戦略を踏まえ、最適な形で森林保全に貢献する道を探求することは、持続可能な社会の実現に不可欠なステップと言えるでしょう。